日本人のための宇宙ビジネスに特化したWEBマガジン

  1. 宇宙ビジネス

衛星データ市場は一人勝ちか?アイサイの強さの理由

iceye

宇宙ビジネスが盛り上がりをみせる中で、宇宙領域の事業で利益をあげる会社はまだ多くありません。多くの会社は、資金調達や他の事業の収益を投資して事業開発を進めています。

このシリーズでは、宇宙領域の事業で、利益がすでにある会社やもう少しで利益がでそうな会社にフォーカスして企業情報をお届けします。あなたが今後の宇宙市場をみたてるときに参考になれば嬉しいです。

今回ご紹介するのは、アイサイ(ICEYE)という会社です。

アイサイのビジネスモデル

アイサイは衛星から観測した地上のデータ(以下、衛星データと呼びます)を提供する会社です。自社で作成した人工衛星を、SpaceX などの打上企業に宇宙空間まで運んでもらい、地上を観測。そのデータを顧客に提供しています。顧客は、データを下記のようなシーンで活用し、より良い決断に役立てています。

利用シーン

【土地】

パイプラインの監視
洪水解析
農作物のモニタリング、収量予測、作物被害評価
自然災害の状況把握

【海】

沿岸の監視
氷山の監視
違法漁業の監視

衛星データを提供する会社は他にもあります。アイサイは収益分配モデルを採用している点で、他社と異なります。後述しますが、資金調達がシリーズBまで完了したからこそとれた戦略。他社の追随を許さないための顧客の囲い込み施策と思われます。

アイサイのビジネスモデルを図にまとめます。

アイサイのビジネスモデル

アイサイのビジネスモデルでは、収益分配モデルで顧客の導入障壁をさげることも良いですが、何より自社にしか提供できない独自の衛星データを提供できるかが鍵になります。

衛星データ分野ではPlanet やBlackSky Global、Satellogic 、UrtheCast など多数の企業が存在しています。ほとんどの企業は光学衛星ですが、ICEYEは「SAR衛星」を使う稀有な企業です。
ここで少し寄り道して、観測衛星の良し悪しを決める要素光学衛星とSAR衛星の違いについて説明します。

観測衛星の良し悪しは総合力

観測衛星の良し悪しは、「観測できる対象」以外に「地上分解能」と「コスト」も重要です。

地上分解能とは、「物を見分ける」能力を表します。例えば、地上分解能が10mの衛星なら10m以上の物を見分けられる画像が撮影できます。分解能の精度が高るほど、データ量が大きくなり、データを地上に送る能力も高める必要があります。そうなると今度はコストの問題にぶつかることになります。

コストは、主に宇宙への打上時の費用であり、衛星の重量と体積に直結します。商用利用するには、コストは無視できません。打上頻度の増加によるコストダウンも期待されますが、衛星自体のサイズダウンが重要です。

光学衛星と比較してわかるSAR衛星のメリット

光学衛星は、人間の目で見ることができる波長の光や赤外線を使い、観測する衛星。メリットは、画像が人間の目で見た風景に近いので直感的に理解しやすいところにあります。デメリットは、日が当たらない夜や、雲で覆われた部分は観測できません。ちなみに平均して約60%は雲に覆われているそうです。地球の半分は日が当たらないので、光学衛星の活躍する機会は限られています。

SAR衛星のSARは「Synthetic Aperture Radar」の略で、日本語では「合成開口レーダー」といいます。電波(マイクロ波)を使い観測する衛星です。電波を使うメリットは、雲があっても、暗い場所でも観測できます。デメリットは、電波で観測するため観測された画像は理解しづらいです。

SAR衛星はこれまで、観測機器が大型になってしまい1tを超える重量になるため、商用利用にはコストが合わず、利用できませんでした。

しかし、アイサイは2018年1月に小型(打ち上げ質量が100kg以下)の合成開口レーダ(SAR)衛星の打ち上げに世界で初めて成功しました。
ちなみに、日本にも小型SAR衛星に挑むシンスペクティブ(Synspective)という会社があります。

コンステレーションでで小型SAR衛星の利点を最大化

2018年1月に最初の衛星を打ち上げたアイサイは、既にSAR衛星で観測したデータの送信を開始。SARなら、高解像度の2次元及び3次元イメージも生成可能です。顧客にデータ解析サービスも提供しています。

アイサイの強みを整理すると以下の3つです。

・収益分配モデルが利用可能
・天候に左右されない
・昼夜を問わない

天候や夜間にも左右されない点で唯一無二のデータを保有していますが、コンステレーションにより、3時間ごとに地球上のあらゆる場所をイメージングできるように事業を推進してより価値を高めようとしています。

また、従来の無線ではなく、レーザーを用いた通信テクノロジーを開発しているBridgeSat と、通信容量の増強を進めています。

小型衛星の見識十分な創業メンバー

ラファル・モドルゼフスキ(Rafal Modrzewski)はアイサイの共同創業者でCEO。ラウリラと2014年に会社となった2012年のプロジェクトの共同設立以来、モドルゼフスキは組織の成長を監督し、アイサイのビジョンを実行する役割を担っています。モドルゼフスキは、長年の研究者としての経験からエンジニアリング分野の専門知識をもっています。

アイサイを設立する前は、RFIDおよびワイヤレスセンシンググループで革新的な製品を研究していました。ポーランドのワルシャワ工科大学で電気工学を学び、Multimedia Technologies Science Groupも共同設立しました。

※RFIDとは、電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステム

また2010年から2013年には、アールト大学でラジオサイエンスとエンジニアリングの研究を続け、フィンランドの主力衛星プロジェクトであるAalto-1に取り組んでいるデータ処理チームを率いていました。

ペッカ・ラウリラ(Pekka Laurila)はアイサイの共同創業者でCSO(最高戦略責任者)を務めています。CSOの前はCFOとして資金調達に奔走していました。

アイサイを設立する前は、フィンランドのアールと大学で小型衛星のプログラムに参加し、地理情報システム(GIS)を学んでいました。

資金調達はシリーズBまで完了

資金調達は過去に3回おこなっており、シリーズBまで完了。合計5,300万ドルを調達しています。

アイサイの調達実績

2018年の「ICEYE-X1」と「ICEYE-X2」の打ち上げに続いて、2019年末までに世界最大のSAR衛星コンステレーションを打ち上げるための資金まで確保しています。

他社が追随するまでにどこまで差をつけられるか

アイサイは、現時点で唯一無二のデータを持っています。衛星データのカバー範囲を最大化するためのコンステレーションを実行するための資金調達にも成功しており、宇宙領域の会社の中で数すくない好調な会社のひとつに数えられます。

今後は、地上分解能の解像度を高めて、衛星データ市場を広げること、衛星データ以外のデータとかけ合わせた分析など、バリューチェーンの川上から川下までカバーしにいくと筆者は予想します。

あえてアイサイの懸念材料をあげるとしたらデブリ問題でしょうか。アイサイの今後の動向が楽しみです。

参照元
https://www.iceye.com/
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/eiseireport/no2/1-4.pdf
https://www.eorc.jaxa.jp/rs_knowledge/mecha_resolution.html

企業分析のリクエストがあればご連絡ください。

文:中原宏樹

関連記事

PAGE TOP